総合診療医ドクターG「立ちくらみでふらつく」
2017年9月13日(水曜日)放送の『総合診療医ドクターG』は、立ちくらみでふらつく。
喉が渇く…など「糖尿病」の症状とそっくりな「IgG4関連疾患」は近年判明した病気です。ドクターG 片岡仁美先生による「裏に隠れた疾患を診る」&「臓器を横断的に診る」ことにより、慎重にすい臓がんとIgG4関連疾患の症状を切り分けて完治に至ったケースでした。
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総合診療医ドクターG番組データ
【放送日時】 2017年9月13日(水曜日)22:25~23:15
【放送局】 NHK総合
【副題】 「立ちくらみでふらつく」
【ドクターG】 岡山大学病院 片岡仁美
【最終診断名】 IgG4関連疾患
【司会】 浅草キッド(玉ちゃん 水道橋博士)
【スタジオゲスト】 松尾貴史 光浦靖子
患者 坂井浩司さん(58)主訴「立ちくらみでふらつく」
今回の患者は坂井浩司さん、58歳。
坂井さん一家はトマト農家です。高温のビニルハウスでの作業中に立ちくらみするようになりました…。お酒もタバコも全く嗜まないとのことですが、お父さんが癌でなくなっています…。果たして重い病気なのでしょうか?
今回のドクターG「片岡仁美」先生
今回のドクターGは、岡山大学病院の片岡仁美先生。
片岡仁美先生は、岡山大学病院の総合内科医、あらゆる症状を読み解いて病気の正体を探る。なぜその症状が現れたのか…症状の裏に何か隠れていないか踏み込んで診る姿勢が先生のモットー。
今回の研修医たち――
- 宮内亮輔(みやうちりょうすけ) … 湘南鎌倉総合病院(神奈川)研修医
- 足立真穂(あだちまほ) … 水戸協同病院(茨城)研修医
- 鮫島雄祐(さめじまゆうすけ) … 太田記念病院(群馬)研修医
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VTR1:坂井さん「最初の問診」
患者の坂井浩司さん(56歳・トマト農家・180cm・69kg)が奥様とご自身で診察に訪れました。
- 昨日もハウスの中で立ちくらみ、しゃがみこんでしまった
- 昨日朝6時、トマトの収穫をしていたが朝はふらついていなかった
- ハウス内の温度は30度以上
- 水分は500ml程度ペットボトルを飲んでいた
- 汗はかなりの量
- 午後1時に大きく立ちくらみがあった
- ふらついた時、真っ暗になったり、目が回る感じは無かった
- 胸の痛みや動悸もない
- 家に帰って水をのんで休んだら楽になった
- これまでで、1ヶ月前にもふらつきを感じている(その時も休んだら治った)
- 健康診断は10ヶ月前に”異常なし”だった
- 酒、たばこはなし
- 野菜中心で暴飲暴食はしない
- 来院三日前にトマト料理パーティーを開いた時は食欲旺盛で食べていたが、料理の味が変わっている様な気がする
- 4ヶ月前頃から、水ばかり2リットル以上飲む習慣が付いている
- 夜3回位はトイレに行く
- 体重は減った、4ヶ月前は75kgあったが69kgだった
- だるいことがとても多い(2ヶ月位前から)
- 下痢はない。血便はない
- 背中や腰がいつも痛いが、湿布は全く効かない
- 父親がガンで亡くなっている
ここまでの問診があり、診察の最後には血液検査を実施して終了となりました。
(1)番組で登場した診断名&補足解説は?
熱中症(ねっちゅうしょう)
(研修医)宮内先生が最初に挙げた診断は「熱中症」。
ハウスの室温が30度を超える中で7時間を超える作業をした(患者)坂井さん。
熱中症とは、体温が上昇し体の中の水分や塩分などが不足する状態。
最終的には、脱水、立ちくらみ、吐き気、痙攣などの症状が起きて命にかかわります。
◯合わない点は?――
吐き気や食欲不振が(患者)坂井さんには起きていない点。
すい臓がん(すいぞうがん)
(研修医)足立先生が最初に挙げた診断は「すい臓がん」。
すい臓がんとは、膵臓に出来るガンの事。
血糖値を下げるホルモン「インスリン」を作る組織「膵臓(すいぞう)」の機能が壊れるとインスリンが出せなくなって、糖尿病になってしまします。
糖尿病によって立ちくらみを起こすことがあります。すい臓がんが進行すれば体重減少や背中の痛みも見られます(=命が危ない)。多飲多尿もあります。
肺がん(はいがん)
(研修医)鮫島先生が最初に挙げた診断は「肺がん」。
喫煙者の発症率は男性4.5倍、女性2.2倍。しかしタバコを吸わなくても肺がんになることがあります。
症状として「せき」「血痰(こきゅうこんなん)」「呼吸困難」「だるさ」「体重減少」などが現れます。
肺がんの炎症が胸膜に現れると、背中の痛みが出ることもあります。(患者:坂井さんは背中の痛みを訴えていました)
◯合わない点は?――
水を多く飲んだり、多尿がある点は肺がんの症状とは合いません。
【補足】起立性低血圧=立ちくらみ
立ちくらみは医学的に「起立性低血圧」といいます。
立ち上がった時に血流が頭に到着しないためめまいが起きてしまう症状のこと。
寝ている時には頭まで血が流れていますが、立ち上がると血液は重力によって下ります。そこで体の反応として頭への血流確保のため足などの血管がぎゅっと締まって地を上へ押し上げているとのことです。
しかし、脱水や出血で血液量が少なくなっている場合(脱水すると血液から水分を補うので血流が少なくなります)には立ち上がりで血管をぎゅっと締めても体全体の血が足りていないため頭への血流が弱まってしまいます。
これが立ちくらみの原因です。
(※しゃがんだ状態であれば足の血管は圧迫され脳への血流は保たれています)
【補足】糖尿病と多飲多尿について
糖尿病になると腎臓の濾過機能が低下して、水分を血管に戻す(再取り込み)機能も低下します。
その結果、健康な人よりも多くの水分が尿として排出されるようになります(=多尿)。
水分が出てしまうので常にのどが渇いてしまい、そのせいで水分を多く摂るようになります(=多飲)。
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VTR2:「血液と尿」の検査結果は?
(患者)坂井さんの血液と尿の検査結果は、「血糖値」が基準値オーバー(350mg/dL)。「HbA1c」が基準値オーバー(10%)でした。
検査結果を受けて「糖尿病」であることは間違いありません。
(2)番組で登場した診断名&補足解説は?
【補足】2型糖尿病(にがたとうにょうびょう)
糖尿病の9割は運動不足や暴飲暴食で起きます。糖分を摂りすぎ血糖が上がり続けると膵臓が疲れてインスリンが出にくくなったり、効き目が落ちます。
その結果体内に糖を取り込むことが出来ず血糖値が上昇します。
この2型糖尿病の場合は年単位で緩やかに進行してゆくそうです。
◯合わない点は?――
坂井さんの場合は、10ヶ月前の健康診断で糖尿病の数値は正常だったため、年単位で進行する2型糖尿病の可能性は消えました。
【補足】1型糖尿病(いちがたとうにょうびょう)
2型糖尿病とは違い、生活習慣とは関係なくインスリンが作られなくなるのが「1型糖尿病」です。
免疫システムの異常などによって膵臓にあるインスリンを作り出す細胞が壊されます。
多くは子供の頃に発症して、月単位で悪化してゆくそうです。
◯合わない点は?――
(患者)坂井さんの検査結果により、インスリンの低下、自己抗体の不全は見られなかったので1型ではないとされました。
【補足】その他の糖尿病(そのたのとうにょうびょう)
1型でも2型でもない場合は、その他の糖尿病というタイプに分けられます。
膵臓、肝臓、副腎などの病変(がん等)によって二次的に膵臓が壊されインスリンが出なくなって糖尿病になる場合もあります。
【補足】急性膵炎・慢性膵炎
膵炎(すいえん)の場合でも、インスリンが出なくなって糖尿病になってしまいます。
膵炎には、急性膵炎と慢性膵炎があり、(患者)坂井さんの場合は激しい痛みが全くないことから、急性膵炎ではないと診断されました。
加えて、全くアルコールを飲まないため、慢性膵炎の可能性も低いと診断されました。
VTR3:坂井さんの「味覚」がおかしい?
- 背中は姿勢によって楽になりますか? … 背中を丸めると少し楽になる
- 背中の打診 … 左の背中腰上あたりに痛みあり
- 味覚がおかしい … トマトが苦く感じた
- 物が食べにくい感じがある。食べ物がパサパサする(水気がなくなる)
- 目がゴロゴロして乾く。コンタクトも入れられなくなった
最終診断名は「IgG4関連疾患(あいじーじーふぉーかんれんしっかん)」
IgG4はウイルスを撃退する抗体の一つです。
この抗体が異常に多く作られると、膵臓に病変を起こしインスリンが出なくなって糖尿になります。
すい臓がんで「目が乾く」「味覚がおかしい」などの症状は出ません。
これが、目が乾くなどの症状が、全てIgG4によるそれぞれの別の臓器への攻撃だとすれば説明がつきます。
(患者)坂井さんは、糖尿病の症状(喉が渇く)に加えてIgG4関連疾患による症状(口が乾く)がありました。
その為、水をガブガブ飲んだり(糖尿病の症状)、ちょびちょび飲んだり(IgG4関連疾患の症状)が同時に現れていました。
また過去の写真(免許証)と比べた所、まぶたの腫れ、顎の下の唾液腺も腫れていました。(顔が変形している)
まとめると…
これらの病気の成り立ちから、”なぜ最終的に立ちくらみが起きたのか?”をまとめると以下のようになります。
- IgG4関連疾患(=膵臓に炎症)
- ↓
- 膵臓からインスリンが出ない
- ↓
- 糖尿病
- ↓
- 脱水
- ↓
- 血液から水分が出てしまい血液が減る
- ↓
- 頭に血が流れにくくなる
- ↓
- 立ちくらみ
さらに、造影CTを撮影すると、すい臓が大きく腫れ上がる(ソーゼージ状の腫脹)が見られました。加えてすい臓の生体組織と血液を取り、IgG4の形質細胞が数多く発見されて、坂井さんは「IgG4関連疾患」で確定診断されています。
一方、採取した組織にはがん細胞はなかったためすい臓がんの可能性は消えました。
坂井さんは、ステロイドによる治療を行い2週間で劇的に唾液腺やまぶたは完治。すい臓についても機能が回復して糖尿病の症状もなくなったとのことです。
(※2017年9月13日放送より)
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総合診療医ドクターG反響ツイート
こんな関連もあるのか…
— しぇり (@s_eri_405) 2017年9月13日
IgG4関連疾患。調べてみよ。#ドクターG pic.twitter.com/j90SszFb8P
IgG4関連疾患
— ビバダラ (@daioujou9990) 2017年9月13日
#ドクターG pic.twitter.com/3mEmvgxnml
https://twitter.com/iberiko1234/status/908113988273160192
膜性腎症ではホスホリパーゼA2受容体抗体が、一時性膜性腎症の発症や病勢と関連することが知られている。膜性ならIgG4取ったらいいかもね。
— さり臨|呼吸器系bot (@respbot) 2017年9月15日
ベテラン医師がある症例をみて、シェーグレン症候群だと診断しても
— ハーレーかんかん (@kaaanxkaaan) 2017年9月15日
若い医師がみるとIgG4関連症例だと言うことがある。
年代によって診断とは変わるものだ。(うろ覚え)
と、聞いて凄く不思議な気持ちになった。同じ症例みてるのに。
https://twitter.com/dama_koro/status/908669194501201920
https://twitter.com/nodori1009/status/908669469672611840
録画してたドクターG見てて糖尿病か膵臓癌と予想、途中までいい感じできたんじゃねって思ったら最終診断まさかのIgG4関連疾患でなんやそれ!?って叫んだ
— みる🌸🌸🌸 (@miru_yn) 2017年9月15日