総合診療医ドクターG「話が噛み合わない」
2017年7月26日(水曜日)に放送された『総合診療医ドクターG』は志水太郎先生の「話が噛み合わない」。突然認知症や痴呆症、脳梗塞のような症状が現れた男性…丁寧に診察を積み重ねてゆくと、実は痛みの伴わない「大動脈解離」だったという予想外の展開に……。
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総合診療医ドクターG番組データ
【放送日時】 2017年7月26日(水曜日)夜10時25分(50分)
【放送局】 NHK総合
【番組副題】 「話が噛み合わない」
【司会】 浅草キッド(玉ちゃん 水道橋博士)
【スタジオゲスト】 かたせ梨乃 辰巳琢郎
【ドクターG】 志水 太郎(獨協医科大学病院・栃木)
【書記】 原田侑典(ゆきのり)先生(獨協医科大学病院)
今回のドクターG「志水太郎」先生
獨協医科大学の総合診療医、志水太郎先生。
志水先生の武器は、緻密な情報収集能力。丁寧な診察の積み重ねで着々と原因にたどり着く。志水先生の信条は「真実を突き止めるまで決して諦めないこと。」
今回の研修医たち――
- (研修医)平野桂滋郎(ひらのけいじろう) … 碧南市民病院(愛知)
- (研修医)上本明日香 … 愛媛県立中央病院
- (研修医)清水拓海(しみずたくみ) … 藤元総合病院(宮崎)
患者「柏木佑一郎さん(63歳)」
今回の患者は、柏木佑一郎さん(63歳)。元鉄道員。170cm、70kg。
きっかけは、孫を連れてハイキングに出かける直前。柏木さんに突然認知症のような症状が現れる。
孫を「誰だ?」と言ったり、遠い山頂まで要する時間を「5分」と言ったり、とにかくボーっとして話が噛み合わない……。
明らかにいつもよりおかしいため、すぐに救急車を呼び病院へ行くことになった。
搬送先の病院で、ドクターGの志水太郎先生が診察にあたる。
- 呼びかけにだけは応答する
- 今日は何月何日かわからない状況
- ここがどこかわからない
- 名前は答えることができた
- (妻)普段は頭の回転がとても早い。段取りもすごく良い
- (妻)物忘れもなく、記憶力が良かった
- (妻)持病なし、普段飲んでいる薬もなし
- (妻)今朝、主人が「あっ!」と言う声がしてからは全く準備が出来ていたなかったことに驚いた(いつもは段取りが良い性格)
- (妻)脈が遅いと言われたことはない
- (妻)普段から運動をしていない
- (妻)お酒は毎日ビール1本
- (妻)睡眠時間は、8時間くらい
- (妻)あくびをしていた(診察中もあくび。「眠い」と本人)
- (妻)頭痛も吐き気もなし
- (妻)バス停と反対方向を進んでしまうなど明らかにおかしかった
- (妻)今までは意識がぼーっとしたり痙攣した経験はなし
- 口を横に開いて「い~」と言える
- 運動、感覚、小脳、脳神経…異常なし
- 脈拍数が低い(徐脈気味)
- 冷や汗が出ている
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番組で登場した疑いのある病名――
副腎不全(ふくじんふぜん)
平野研修医が最初に診断した病名。
副腎不全(ふくじんふぜん)とは、腎臓の上にある副腎からホルモンを分泌できなくなる病気。
副腎から出るホルモンは「血圧・脈拍・塩分などの電解質」の調整をしていてホルモンが出なくなるとこれらの機能が悪化する。
「血圧低下」「徐脈(脈が、50回以下/分と遅くなる)」「意識の混濁」が起きる。
合わない点は…副腎不全の特徴である「血圧低下」が現れず、血圧が逆に高いこと。
また、血液検査の数値に異常は無いことからこの病気の可能性は除外された。
脳梗塞(のうこうそく)
上本研修医が最初に診断した病名。
脳梗塞(のうこうそく)とは、脳の血管が細くなったり詰まったりして、酸素や栄養分が行かなくなることで脳細胞が壊死する病気のこと。
部位によって半身麻痺で運動や感覚が麻痺したり、言語野に梗塞が起きると言語障害も現れる。
ただし、今回は典型的な症状である「半身麻痺」が出ていないたため、脳梗塞の疑いは除外された。
患者の柏木さんは、脳の特定の部位ではなく、もっと広範囲(大脳や脳幹全体)の症状が出いている。
低カリウム血症(ていかりうむけっしょう)
清水研修医が最初に診断した病名。
低カリウム血症(ていかりうむけっしょう)は、血液中のカリウムが減る病気。
カリウムは筋肉を動かす重要な役割があり、特にナトリウム(電解質)とのバランスが崩れると筋肉が動かなくなる。
まれに徐脈になることもあり、放置すれば心臓が止まり脳に血が流れなくなって死亡することもある。
合わない点は…見当意識障害(認知症のような症状)が出過ぎている。
また、突然発症の病気ではなく、さらに血液検査によって電解質の異常は無いことからこの病気の可能性は除外された。
意識障害の種類について――
意識障害には、「認知の障害」と「覚醒の障害」の二種類がある。
- 認知の障害(大脳の障害) … 道を間違える、話が噛み合わないなど周りの状況を正しく理解できない。
- 覚醒の障害(脳幹の障害) … 昏睡状態、強い眠気に襲われる状態
柏木さんの場合は、強い眠気もあり大脳と脳幹の両方で(広い範囲に)問題が起きている可能性が強い。
柏木さんの経過をたどれば、昨晩寝るまではいつもどおりだったが、朝には症状が出ていた。つまり、慢性的というよりも急な「認知機能の低下」や「急な覚醒の低下」という「急性発症(数日単位で悪化)」または「突然発症(数時間単位で悪化)」の経過を辿っている。
ヘルペス脳炎(へるぺすのうえん)
ヘルペス脳炎(へるぺすのうえん)は、脳にヘルペスウイルスが入り込むことで炎症を起きる「急性発症」の病気。
高熱、頭痛、嘔吐、言語障害などが起きる。
くも膜下出血(くもまくかしゅっけつ)
くも膜下出血(くもまくかしゅっけつ)は、脳を包む膜のくも膜と軟膜の間で血管が破れて起きる、「突然発症(数時間単位で悪化)」の病気。
激しい頭痛、嘔吐、意識障害が現れることがある。
しかし頭部CTを見てみると、脳出血は見られなかったため、この病気の可能性は除外された。
クッシング兆候(くっしんぐちょうこう)
脳腫瘍、脳炎、クモ膜下出血などの病気になると、脳圧が上がる為、心臓から脳への血液が送りにくい状態になる。
この影響を受けて高血圧になり、徐脈になってしまう傾向を「クッシング兆候」という。
脳のCT検査について――
脳の出血の検査にはCTを使う。
クモ膜下出血の場合は、出血箇所が画像に白く映る。
柏木さんの画像では全く出血の白い部分は見られなかった。そのため、クモ膜下出血の可能性は除外された。
さらに、脳梗塞の特徴である「半身麻痺」、髄膜炎(細菌性 ウイルス性)の「激しい頭痛」、脳炎(ヘルペス)の「高熱」も無いことからこれらの病気も除外される。
VTR2「外出前に何があったのか……!?」
柏木さんが夜寝てから、外出するまでに何があったのか、この時間、柏木さん本人しか知らない「空白の時間」となる。
朝起きてからハイキングの準備をしていると「あっ!」と柏木さんの声が。
奥さんが見ると右の首あたりを押さえたまま目をつぶり、座り込む柏木さんの姿が見える。
その瞬間を境に返事をすることもなくなったという……。
どうやらこの時何かの病気が「突然発症」したらしい。
最終診断結果は「大動脈解離」だった――
最終診断結果は、上本明日香先生(研修医)の「大動脈解離」だった。
(他の二人の先生は「椎骨脳底動脈解離(ついこつのうていどうみゃくかいり)」の回答だった。)
椎骨動脈と脳底動脈はそれぞれ脳(脳幹)に血液を送る血管のこと。
椎骨脳底動脈解離は、これらの血管が裂けて脳に血液が流れなくなる病気。
頭痛や、首の痛み、冷や汗、嘔吐、麻痺などの症状が現れるが、柏木さんの場合脳幹だけでなく椎骨脳底動脈に関係がない「大脳全体」の障害も出ていたため、椎骨脳底動脈解離は除外された。
大動脈解離(だいどうみゃくかいり)
今回の最終診断結果である「大動脈解離(だいどうみゃくかいり)」とは心臓から伸びて下腹部まである人間で一番太い血管(大動脈)が裂ける病気。
激しい胸痛、背中の痛み、冷や汗が現れる。
特に、心臓から出てすぐの上行大動脈の部分に解離が起きると頭に流れる血流が少なくなる。
脳全体の虚血(血が少なくなること)によって、広範囲で「認知・覚醒」が低下する。
痛みのない大動脈解離がある……!?
患者の柏木さんの場合、大動脈解離なのに激しい痛みが無かった。
実は「痛みのない大動脈解離」は、全体の10%もある。
脳に血流が乏しい状態では痛みを感じる事もできなくなりこの場合には大動脈解離でも痛みが出ない事が報告されているという。
また、徐脈についても上行大動脈に解離が起きたことで右冠動脈への血流が遮断され、心臓のペースメーカーである「洞結節」「房室結節」の働きが弱くなって徐脈が引き起こされたと考えられる――。
柏木さんに造影CTを撮影したところ、なんと上行大動脈から腹部まで裂けていたことが解った。
大動脈解離の発症リスク
大動脈解離が起きやすいリスクの高い人は以下のような人
- 慢性的に高血圧のある人
- 動脈硬化がある人
柏木さんの治療について……
柏木さんは、即手術となり胸部からお腹にかけての大動脈を人工の血管に置き換える大手術となった。(科をまたいでの大手術)
集中治療室で二ヶ月治療し、1年後完治して現在は普通の生活を取り戻している。
(※以上2017年7月16日放送)
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次回の総合診療医ドクターGは…
8月2日(水曜日)「ふらついて転んだ」。