2014年7月31日(木)放送の『NHKスペシャル 調査報告 STAP細胞 不正の深層』は…
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2014年7月2日 理研にて再現実験始まる
(※小保方晴子さん話題のグラビア撮影「婦人公論 2018/4/10号」)
(語り:山根基世)
2014年7月2日、理化学研究所CDBの小保方晴子研究ユニットリーダーがタクシーを降り研究所に入って行く。
不正がないように、2台のカメラと立会人で万全の監視体制を敷く。2014年1月に発表された「STAP細胞論文」は、生物学の常識を覆す世紀の大発見として世界的に注目された。
しかし、2014年8月イギリスの科学雑誌「ネイチャー」は、STAP細胞の論文を取り消した。論文はなぜ世に出たのか?
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内部資料で再検証
NHKは独自に2000ページ近い内部資料を入手。そこには小保方晴子研究ユニットリーダーの実験ノートのコピーも含まれた。
これら内部資料をNHKが独自に専門家を集め、改めて検証した。その結果、画像やグラフのほとんどで何からの不自然な点を発見。
「立ち止まるべきチャンスを見逃した」
自己点検検証委員会 鍋島陽一委員長「残念ながら立ち止まるべきチャンスをほぼ皆で見逃してしまった。」と話す。
STAP細胞の原点
アメリカ・ハーバード大学。小保方晴子研究ユニットリーダーは、この研究室で留学生としておよそ1年半過ごした。チャールズバカンティー教授は当時の指導教官で、受精卵の様な万能細胞を作る。それが小保方氏のSTAP細胞の原点だった。
人類がこれまでに、手に入れた万能細胞は二つ「ES細胞」と「iPS細胞」これらの細胞よりももっと簡単に万能細胞を作れないかと考えたのがSTAP細胞。
植物のシロイヌナズナは、根を切ると切った部分の細胞が万能細胞になる。このような細胞が、動物細胞でもないだろうかと探していた。
2010年夏 若山照彦氏協力
2010年夏、新しい研究パートナーとして若山照彦氏(マウスのクローンを世界で初めて生み出した科学者)が協力してくれた。当時若山氏には、小保方氏がハーバード大学を卒業した、とても優秀な若者に見えたという。
小保方氏は、理研の若山研究室の奥まった場所でいつも”一人”で作業をしていたという。
NHKは、ここで研究していた当時の実験ノートコピーを入手した。そのノートによると、日々マウスの細胞に刺激を与えその細胞が万能細胞かどうか、若山氏に検証を依頼していた記録があった。
さらに、万能細胞の証拠として必要なキメラマウスがなかなか生まれず、実験は難航していた様子でノートには「キメラ生まれず」と、書き記されていた。
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2011年11月 STAP細胞発見
若山研究室で1年が過ぎたある日、小保方氏からいつものように、細胞を受け取って検証すると、事態が急変。なんと緑色のキメラマウスが生まれていた。(当時のキメラマウスの映像が理研に残っている)
この時、若山照彦氏は手が震えたという。しかし2011年11月のノートには、予想に反して、”21日〜22日「キメラ実験」”と書かれてあるだけで、シンプルすぎる記載内容。世紀の大発見にしてはあっさりとして、どんな風に細胞刺激を与えて作ったかという記載もない。
「実験成功の記述はどこにあるのか?」NHKが文章で小保方晴子研究ユニットリーダーへ質問したが答えは返ってこなかった。
アメリカで事情を探る
STAP細胞は存在するのか?その手がかりをつかむため、アメリカ・ボストンに向かう。ハーバード大学のジョージデイリー教授。教授は万能細胞の世界的な権威。
デイリー教授は当時、その画期的な論文に驚いたという。
【STAP細胞の作り方】
- 生後1週間のマウスから細胞を取り出す
- オレンジジュース程度の弱酸性(pH5.4〜5.8)に25分浸す
- 更に数日間培養すればSTAP細胞が出来る
デイリー教授は、論文に書かれていたことが本当だったら万能細胞の研究の新しい扉が開く発見だと思った、と話した。教授も再現できるか自身の研究室で何度も試したがうまくいかなかった。さらに、小保方氏の恩師、チャールズバカンティー教授が監修しても、一度も成功することはなかったのだ。
山梨大学2014年3月「小保方氏、別のマウス細胞混入の可能性」
STAP細胞疑惑以降も若山照彦氏は、自分の実験に手違いがないか何度も、実験をしてきた。そして小保方氏が発見当時に使っていたマウスのDNAを調べることに。
すると、いつも若山氏が渡して小保方氏が培養していたはずのマウスとは違うマウスのDNAが検出された。これは、小保方氏が違う場所から別のマウス細胞を持ってきたという証拠となる。
理化学研究所の遠藤高帆 上級研究員。(enchantMOONを使っている様子が放送された)STAP細胞の遺伝子情報を3ヶ月以上使って解析。その結果「アクロシンGFP」という特殊な細胞が組み込まれていることが判った。
若山照彦氏は、当時アクロシンGFPが入ったマウスで作った”ES細胞”を保管していた。このES細胞がSTAP細胞にすり替わった可能性がないか何度も検証したが(自分の領域の中では)その可能性はなかった。(小保方氏の領域では判らない)
2014年4月9日の記者会見で、小保方晴子研究ユニットリーダーは、ES細胞が混入した可能性を否定している。
小保方晴子研究ユニットリーダー「研究室内ではES細胞の培養を一切行っていない状況でSTAP細胞の研究は行われていました。なのでES細胞のコンタミ(混入)ということが起こりえない状況を確保しておりました」
小保方晴子氏の使う冷凍庫に、ES細胞があった?
NHKが取材を続けると、ES細胞の入った容器が小保方氏の冷蔵庫から見つかった(容器の入った箱の写真が公開された)。これは、それは若山研究室にいた留学生が作成したES細胞だった。(「なぜそこにあったのか判らない」と電話インタビューに応じる当時の留学生)
次々と問題の指摘があがっていて、小保方氏が渡したSTAP細胞は実は、この冷蔵庫に有った、ES細胞なのではないか?と疑惑があがっている。
こうした新事実に対して、理研や小保方氏は答えないまま、検証実験をスタートさせている。
理化学研究所CDBの竹市雅俊センター長は、「STAP細胞が99%なくても、1%の可能性があるわけだから、それはやってみないと判らない。今の情報だけで結論出すんじゃなくて全解析してから結論を出すのが正しい。」と実験の意義を話した。
エリート科学者問われる責任
日本トップクラスの科学者が集まる知の拠点「理研CDB」小保方氏を手厚くサポートして、世界一流の科学雑誌への掲載をサポートしたのは、日本を代表する科学者たちだった。
何度も「不採用」になっていた小保方論文
NHKは、小保方氏が科学雑誌「ネイチャー」掲載を拒否されたほうの論文を入手。
最初にその論文が投稿されたのは2012年4月。その後、「Cell」「Science」にも投稿したが、いずれも掲載される事はなかった。
その時ボツになった各紙からは、以下複数のダメ出しが有った。
- 全体的にプレゼンテーションのレベルが低い
- データの大部分の分析が不完全で説明が不十分
- ES細胞が混ざっているのではないか?
などの指摘である。
Natureの評価をひっくり返した?「論文執筆の天才・笹井芳樹氏」
所がその後、2013年論文執筆の天才として知られる、笹井芳樹氏(理化学研究所CDB副センター長)の手が加わり「Nature」が掲載を決定する。
笹井氏は、山中伸弥教授のIPS細胞が登場するまで、日本の再生医療研究のトップに立つ人物とも言われ、交渉力にも優れ、理研予算獲得の中核的存在。
笹井芳樹氏と小保方氏のメール内容
小保方さん
本日なのですが、東京は雪で、寒々としております。
そんなこんなで、残念ながら、早くラボに帰るのが難しい可能性が…(読み取れず)
何かご相談等が有れば、明日はあるいはメイルでよろしくお願いします。
2回目の樹立のライブイメージングは、ムービーにしてみたら、どんな感じでしたでしょうか?
では、また、明日にでも見せて下さいね。
小保方さんとこうして論文準備が出来るのをとてもうれしく、楽しく思っており、感謝しています。
笹井
また、小保方氏から笹井芳樹氏へ宛てたメールも公表された。なぜ世界的に名の通った研究者の居る中で不正の有った論文が通ってしまったのか。
その謎を探るためにNHKは、九州大学、徳島大学、大阪大学などの有識者に依頼し、徹底的に入手した論文資料を分析。その結果、理研が認定した画像意外にも不自然なものが出てきた。
その決定的な部分は、「元のマウスの細胞と最終的に出来た万能細胞が同一かどうか?」について「調べた。」とだけ書かれていて、”調べた結果どうだったのか?”について肝心な部分が書かれていない。
このことは、笹井芳樹氏も気付いていたのではないか?と識者は言う。この点について笹井氏本人に取材を申し込んだが、インタビューは出来なかった。
その代わりメールでの回答があり、「少なくともNatureの査読者はOKだった」という回答を寄せる。
「STAP細胞」論文の特許を取る期間が迫っていた
最近では、論文の作成と共に特許を取得するのが一般的で、科学者にとってはスポンサーや優秀な人材獲得のため論文以上に大切な事(札幌大学の石埜正穂教授・談)。STAP細胞の場合は、論文を取得する期限までわずか3ヶ月しかなかった。
自己点検検証委員会 鍋島陽一委員長は、「CDBのプロジェクトマネーをとるのも笹井さん、企業との連携プロジェクトも担当していた。彼は本当に大事な物を失ってしまった。一つの論文のために…。」と話した。
研究不正をどう防ぐのか?アメリカでの取り組み
科学雑誌「Nature」のフィリップキャンベル編集長にインタビューをした。論文の審査が十分でなかったことを認めた上で、研究不正を防ぐ取り組みの大切さを語った。具体的には「画像の加工」について考え直したいという。
アメリカでは、不正を行った研究者の実名を挙げ、その研究者の心理について学ぶ講義があり、ピッツバーグ大学のカレンシュミット教授などが議論を重ねている。
ミシガン大学医学部では、画像データ・グラフの不正を防ぐ為、50億円を投じてサーバーを整備。研究者のデータをすべてこのサーバーで管理している。不正が発覚した場合は、このオリジナルのデータを使って検証できる仕組みを作っている。
また、「ORI 研究公正局」を設置し外部から不正の通報があった場合に、専門の担当者が調査、不正が確認されれば政府からの資金が凍結される仕組みとなっている。
組織の不条理な命令・大きなプレッシャーが不正を産む
ミシガン大学のニコラスステネック教授は言う。「いくら教育をしても組織に不条理な命令をされたり大きなプレッシャーがあったりすれば、不正は減らない。したがってそうした組織の風土を変えることがとても大事。」
理研が最初に不正を指摘されて調べたのは、論文の6つの項目だけ。その後さまざまな疑問が生まれても、理研はそれ以上の調査は行わなかった。
その一方で理研は、「重要な秘密が外部に漏れている」と、漏らした職員の処罰ルールをきつくした。
外部からの強いプレッシャーを受け、論文の6つだけではなく、全体について調査をすると発表したのは、不正発覚から4ヶ月以上経ってからの話だった。
理化学研究所、川合眞紀研究担当理事に問うと、「真理の探究はすべきだと最初から思っている。今すぐやります!と宣言しなかったことがイケないことだったなら、大変な罪だったかもしれない。でも時間がかかったのです」と話した。
STAP細胞論文で失った日本の科学の信頼
科学者の間には危機感が広がる。九州大学の中山敬一教授は「科学者はだれもちゃんと検証も発言もしていなかった。理研が不完全で恣意的な調査をしただけ。このままだと不正を働く人が増えてくる。それにもかかわらず、それを防止する方法も持っていない。ここでちゃんとした手を打たないとマズい事になる。」と話した。
(2014年7月3日木曜日・再放送)
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