総合診療医ドクターG「意識がない」
2017年5月10日(水曜日)放送の「総合診療医ドクターG」は、仕事のストレスをきっかけに「全身性エリテマトーデス・SLE(最終診断)」を発症して昏倒し意識がない状態で救急で運ばれた女性について――。
その症状は「感染性心内膜炎」にソックリだったが「全身性エリテマトーデス」と治療法は正反対のため、もしその診断のまま突っ走っていたとしたら患者の命はなかったという…。
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総合診療医ドクターG番組データ
【放送日時】 2017/05/10(水曜日)
【放送局】 NHK総合
【番組副題】 意識がない
【司会】 浅草キッド(玉ちゃん 水道橋博士)
【スタジオゲスト】 篠原ともえ 松尾貴史
【今回のドクターG】 植西憲達(藤田保健衛生大学病院・愛知)
【書記】 神宮司成弘(藤田保健衛生大学病院)
今回のドクターG「植西憲達先生」とは?
今回のドクターGは、藤田保健衛生大学病院救命センター集中治療室の、植西憲達先生。
植西先生は、救急救命センターで集中治療室を担当している医師。患者の多くは自分の症状を訴えることが出来ない重篤な方が多い。
限られた時間の中で病気を絞り込み、その中で「何か変だという違和感」を逃さず辻褄が合うまで考え抜くことが流儀だという。
(※植西先生は集中治療医であり受診の際の指名はできません)
今回の研修医たち
- 靑木一晃 … 洛和会音羽病院(京都)研修医
- 大山亜紗美 … 仙台医療センター研修医
- 菅野徹 … 福井県立病院研修医
三浦彩さん:主訴「意識がない」
患者は、三浦彩さん(仮名)。30歳会社員、155cm、53kg。
三日間連絡が取れない為、友人が部屋に行ってみると、物が散乱した状態。
そしてベッドの脇で倒れている彩さんを発見する――。
彩さんは、既に意識がなく顎で呼吸だけしていた。すぐに救急車で病院へ…。
- 顎だけで呼吸している
- 意識レベル … JCSⅢ-200(痛みに少し反応する)
- 経静脈に怒張あり
- 左眼瞼結膜(がんけんけつまく)に点状出血あり
- 聴診 … 心雑音あり
- 対光反射(たいこうはんしゃ)あり … ライトを当てた時に瞳孔が小さくならないと異常
- 痛み刺激(除皮質肢位=じょひしつしい)あり
- スネに浮腫 … あり
- 足の指に紫斑(内出血)あり ⇒ 心臓からばい菌などの塊が飛んで足で詰まると紫斑が出る
- バビンスキー反射(=足の指が開くと異常)両足にあり
- バンコマイシンとセフトリアキソン(抗菌薬)を投与
- CT検査に異常あり(不明な影があった)
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彩さん来院1ヶ月前…
――付き添いをした友人の話。
家電メーカーに務める彩さんは、来院の1ヶ月前から仕事に失敗。相当落ち込んでいた彩さん――。
その頃から会社を休みがちになり、2週間前からは完全に休んでいた。
来院の10日前に会ったときは「やる気が出なくて料理が作れない」「私なんか居ないほうがいいのかな…」など鬱のようにも思えたと友人。
その時は、どんなふうに頭が痛いか?関節の痛みはあるか?…など具体的な症状は聞いていないが、「足がむくむ」とは言っていたという…。
最後に話したのは、来院3日前。電話で話すと「間違えて変なところに発注しないでよ!!」と叫び怒って電話を切ったという。
その後集中治療室へ
彩さんは、その後集中治療室へ。
腎不全のため人工透析を始めた――。
- 心臓エコーに異常なし
- 経食道心エコーで心臓を食堂から観察したところ心臓の弁の動きに異常あり
VTR途中…ここまでで登場した病名は?
――ここまでのVTRを見て番組研修医たちがドクターḠとカンファレンスを開始。
様々な病名が登場した。
感染性心内膜炎(かんせんせいしんないまくえん)
研修医・靑木先生&大山先生&菅野先生が三人揃って出した最初の診断結果。
「感染性心内膜炎」とは、体内に入った細菌やウイルスが心臓の膜や弁に感染し起きる病気。
感染が心臓で発生しているため、増えた細菌やウイルスが全身を駆け巡る。
そのため、全身のだるさ、発熱、関節痛、頭痛、腹痛など様々な症状が現れる。
さらに、心臓弁の周りで塊(疣贅=ゆうぜい)となった血や細菌が頭に飛ぶと脳梗塞を引き起こす場合もある危険な病気。
ただし、彩さんの場合MRIを撮影すると脳梗塞の他に炎症が起きていた――。
感染性心内膜炎で脳に「炎症」が起きることは希。
そのため「感染性心内膜炎」を最終診断とするには違和感があった…。
脳梗塞(のうこうそく)
研修医たちは三人共、細菌の塊が脳に飛んで「脳梗塞」が起きていると考えた。
脳梗塞によって舌の付け根が落ち込むと、上気道がふさがりそこで「いびき」をかくようになる。
また、脳の機能が弱くなると「除皮質肢位(じょひしつしい)」という、胸を押された時に無意識で取る身体の反応が起きる。
さらに部屋が散らかる、急に激怒する、意識障害などいずれも脳の機能の異常によって引き起こされる。
全身性エリテマトーデス(SLE)
MRIで脳に炎症が起きていることから、感染性心内膜炎の診断をくつがえし登場した病名は「全身性エリテマトーデス」だった。
別名SLEといい、自己免疫疾患のひとつ。
体内に入ってきた細菌を攻撃するはずの免疫システムが、間違って自分の体を攻撃してしまう病気。
- 関節
- 皮膚
- 腎臓
- 血管
など様々な場所で炎症が起きる。免疫システムによって脳が攻撃されると、脳の中で炎症も引き起こす。
脳の炎症、浮腫は、「異常行動」「意識喪失」などの症状が現れ、脳の血管が攻撃を受けると脳梗塞になる場合もある。
また、心臓が攻撃され「疣贅(ゆうぜい)」も発生するので「感染性心内膜炎」と同じような症状が現れる。
「感染性心内膜炎」と「全身性エリテマトーデス」では治療法が正反対!?
感染性心内膜炎と全身性エリテマトーデス。
どちらも同じような症状が出るが、しっかり病名を見極めないと危険。
なんと、2つの病気は治療法が正反対になるため、間違って治療するとかえって病気を悪化させてしまうのだ。
- 感染性心内膜炎 … 体内のウイルスを撃退しなくてはいけないので、抗菌薬を投与し免疫システムをより活発に働くように治療
- 全身性エリテマトーデス … 免疫システムが暴れているため、免疫システムを抑えるステロイドが効く
もし、感染性心内膜炎にステロイドを投与すれば免疫システムが弱まるため余計に細菌が暴れだす危険性が高くなる。
反対に、全身性エリテマトーデスに抗菌薬を投与すれば元々細菌やウイルスが居ないので薬は効かない。そして免疫システムは抑えられず病状はますます悪化してゆくことが考えられる。
全身性エリテマトーデスを確定するには?
全身性エリテマトーデスの場合は、免疫システムが特殊な「自己抗体」を作る。その自己抗体を発見できれば全身性エリテマトーデスと判定が可能となる。
自己抗体は血液検査によって調べることが可能。
しかし自己抗体の検査は3日から4日必要。
VTRのつづき「ご両親の来院」持病などを聞く
遠くに住む、彩さんのご両親が来院した。
先生の問診が続く…
- 持病などはないか? … 大きな病気はなし
- 健康診断で心臓の異常を指摘されたことは? … なし
- 鼻の周りに赤い発疹が出たことは? … なし
- 最後にあったのは4ヶ月前 … 変わりなし、浮腫がよくあると言っていた
彩さん来院3日が過ぎ容体悪化
対光反射がなく、彩さんの容体は悪化した。
自発呼吸も止まっている状態…。(⇒人工呼吸)
血液培養で細菌を検出。全部検出されたのではなく3セット中1セットで検出。(=細菌がコンタミ(血液の採取中、皮膚など別の場所から汚染した可能性あり)
最終診断結果は「全身性エリテマトーデス」!
研修医たちは最後のVTRを見た後全員、感染性心内膜炎から全身性エリテマトーデスに診断をチェンジ。
その理由は…
- 以前から浮腫があるが悪化していない … 感染性心内膜炎の場合は細菌が増殖するため短期間でむくみは悪化してゆく(ただし若い女性はよくむくむのでこれで全身性エリテマトーデスを確定することはできない)
- 検査でブドウ球菌が見つかったが皮膚のブドウ球菌が混入したかもしれない(感染性心内膜炎ではない可能性がやはり高い)
ただし、全身性エリテマトーデスの可能性がかなり高いが、感染性心内膜炎の可能性が捨てきれない…。
しかも、確定に足る検査が出るにはまだ数日の時間がかかり患者は結果が出るまで持たない。
ドクターGは、「全身性エリテマトーデス」の可能性が高いと家族に説明し、万が一「感染性心内膜炎」だった場合にはリスクがあることを伝えた上でステロイドパルス治療を選択したと言う。
ステロイドパルス開始!
彩さんは「全身性エリテマトーデス」を疑い、ステロイドパルス治療を開始。
ステロイドパルスとは、通常の数倍のステロイドを一気に注入する治療法で、全身性エリテマトーデスで免疫システムが暴走している時には劇的に効く。
その後、抗核抗体「陽性」、ds-DNA抗体「陽性」の判定が出て「全身性エリテマトーデス」が確定した。
危なく「”感染性心内膜炎”で突っ走る」ところだった…!
今回の研修医たちも、最初は症状から全員が「感染性心内膜炎」を疑った。
もしそのまま突っ走っていたら患者は自己免疫疾患で確実に亡くなっていた。
「脳に起きないはずの炎症反応」という違和感は、全身性エリテマトーデスを疑う最初のサインだった。
こういった「違和感に食らいつく」ことによって自分の思い込みをうまく外す訓練は絶対に必要だと、ドクターG 植西憲達先生は語った――。
彩さんは3ヶ月後には脳の炎症や浮腫が消え、脳梗塞の範囲も小さかったため1年後には左足の麻痺のほか元気を取り戻すことが出来たと言う。
(※2017/05/10【放送】)
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総合診療医ドクターG反響ツイート
たまたま観たドクターG、SLEを取り上げていた。2008年の自分の状態(すでにSLEだったけど)と少し似ていて興味深い。「ここで(パルス)やらないと、死ぬ」と説明を受けた。連夜の幻覚、変なことを口走り続け病室の人たちを怖がらせた。水が甘く感じた(味覚障害)。眠ることを忘れた。
— ゆうこ新聞@最終号発行中 (@ogawayuko) 2017年5月11日
ドクターG。若い女の子が突然意識失って自発呼吸もできなくなる全身性エリテマトーデスっていう病気の原因は?どうして自己免疫疾患になるのだろう。医師が疑いを持って検査したから助かったが違う診断する医師に当たったら今頃亡くなっていたかと思うと医師の当たりはずれで命が決まることが凄く怖い
— ばんび (@bmb1202) 2017年5月11日
ドクターgって番組観てたけど、医者って凄いって思ったわ。
— ... (@111547ka) 2017年5月11日
数ある症状と病気があるのに、患者さんの症状をVTRでみただけで、二つの病気に絞れたことが凄い。
https://twitter.com/music_tigers_ck/status/862600464096927745
ドクターGわいの持病好きすぎやろ
— 春 れえら (@harureera) 2017年5月11日
https://twitter.com/hrkp3q/status/862622744436801536
【Op】
— さく (@za_yi) 2017年5月10日
イビキかいて失神。30歳女性。
部屋の中が荒れまくってる。とっちらかりまくり。
切り花が枯れてた。
#NHK #ドクターG
植西先生、変わったメガネ#ドクターG
— sunset77koto@日暮奈津子 (@sunset77koto) 2017年5月10日
患者役の役作りの方法を知りたい #ドクターG
— 𝑮𝑶𝒁𝑬𝑵 (@gozen74) 2017年5月10日
— あつし@リハビリと鬱を繰り返してる (@atsushifx) 2017年5月10日
#ドクターG #NHK
— しんぷう (@shinpooh_disney) 2017年5月10日
彩さんが快復するのか気になる。
30歳と若いのに…。
それにしてもこんなに診断の付けにくい病気だったら行く病院を間違えると命取りにしかならんやん。結局生き死には運の良し悪しが相当あるっちゅう事やね。#ドクターg #NHK
— 牌田 乙太郎 (@otutarou6) 2017年5月10日
名医であれ研修医であれ、人の生き死にの前で大変な葛藤を抱えながら治療法を選択するわけですよ。それを「医者が100%治せないのはおかしい!」と猛烈に非難できる考え方は全くわからんよね。 #nhk #ドクターG
— ダメ猫。 (@dameneko_ry) 2017年5月10日
ステロイドパルスは治療の前に大腿骨頭壊死症になるリスクの説明が欲しかった。#ドクターG
— かんたむ (@heeroyuy3247) 2017年5月10日
#ドクターG はまた新たな側面を視聴者に見せてきているのではないか
— へたれ薬剤師Kiko讃えられざるシンデレラ (@hetareyakiko) 2017年5月10日
もはや単なる病名当てではない。
一般の方に、医師の治療方針決定プロセス、思考過程をよりくっきりと見せているような。
それによって、医師(医療従事者)と一般の方の間に横たわる深いギャップを解消する助けになるのでは
この番組は医療現場で診断を下すのがどれだけ大変かという医者の立場を知るためにも一般の人ほど見るといいと思うなあ #ドクターG
— (🌤) (@mag06) 2017年5月10日
2つの病気が疑われ、確定診断がつく前に、治療を始めなければならない切迫した状況。しかも、治療法は正反対。まさに究極の選択というシビアな回でした。 #ドクターG
— ひろぱげ (@hiropage) 2017年5月10日
https://twitter.com/harryusausa/status/862310873536188417
ドクターG偉そうというけど、ここに出てくるドクターは時間が少なくわずかな手がかりを元に正確に診断を下しているので、ゆっくりヒントを与えられている研修医に本当にその診断で合っているか圧をかけるのは当然だと思う #ドクターG
— (🌤) (@mag06) 2017年5月10日
次回の総合診療医ドクターGは「謎の関節痛」…
次回は17日(水曜日)よる10時25分。謎の関節痛。
前回の総合診療医ドクターGは「セフェピム脳症」
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